栄研スタッフによる解説論文集 作成日 98/05/27 01:18 PM

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活性酸素・フリーラジカルの消去と日本型食生活

斎藤衛郎(国立健康・栄養研究所 食品科学部)


我々が日常生活の中でとくに意識することも無く吸っている空気は、生命活動に必要なエネルギーを産生するための酸素を供給する上で無くてはならない掛け替えのないものである。ヒトは、酸素分子を呼吸により吸収し、体内に取り込んだ食物成分を酸化してエネルギー(ATP)を生産し、生命活動を維持するために利用している。この酸素のほぼ98〜99%は主としてエネルギー産生に有効利用されるが、残りの1〜2%程度が“活性酸素”の発生につながり、ヒトの体に悪影響を及ぼすことになる。

酸素分子から発生する活性酸素種には図1に示すようにスーパーオキシド(・O−2)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシルラジカル(・OH)、一重項酸素(1O2)などがあるが、この他に脂質の酸化により生成する脂質ヒドロペルオキシルラジカル(LOO・)や脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)なども広義の活性酸素種と考えられる。
活性酸素は、その強い酸化力により細胞内のたんぱく質や遺伝子DNAを傷つけるとともに、細胞膜を構成する脂質を攻撃して、毒性の強い脂質ヒドロペルオキシド等の過酸化脂質を作り、細胞損傷や組織傷害を引き起こす。こうした有害な作用の蓄積が、老化を促進したり、がんや動脈硬化、心臓病を始めとする、いわゆる生活習慣病(成人病)の原因の一つとして注目されるようになってきている(図1)。

一方で、生体は、こうした有害な作用を防ぐための強力な抗酸化システムを備えていることも分かっている。例えば、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ(GSHPx)などの抗酸化酵素群と生体内で作られる尿酸、ビリルビン、ユビキノール、グルタチオンなどの抗酸化物質群である。しかし、これらの抗酸化成分だけでは活性酸素の消去には充分ではなく、抗酸化ビタミンとして知られているビタミンEやCが相補的に生体の抗酸化システムにおいて大変重要な働きをしている。さらに、食品中には、これらの抗酸化性物質以外にも実に様々な抗酸化性物質が含まれ(表1)、食品脂質の酸化や生体を活性酸素の害から守る上でも重要な役割を果たしている。注目すべきことは、これらの食品中の抗酸化性物質が、いわゆる“日本型食生活”の中で我々が日常食べている食べ物と密接に関係していることである。

日本人の平均寿命は、第二次大戦後“世界の奇跡”といわれるほど目覚ましい伸びを示し、1995年現在、男76.36歳、女82.84歳と男女とも世界一の長寿を誇っている。これには、遺伝素因を始めとして、公衆衛生の改善や医療制度の充実・発展が大きく寄与していることは明らかであるが、伝統的な日本の食事に欧米の食生活の長所を取り入れて築き上げた“日本型食生活”が、戦後の急激な日本人の平均寿命の延びに大きく貢献したことは周知の事実である。日本型食生活は、欧米諸国の「低炭水化物・高動物たんぱく質・高脂肪」型と発展途上国の「高炭水化物・低動物たんぱく質・低脂肪」型の中間型に位置している。すなわち、米を始めとした穀類を中心とする主食と、魚介類、豆類、野菜類、海藻類を副食として充分に摂取し、さらに、肉類、卵類、乳・乳製品と果物をほどほどに摂取する食事を特徴としている。

これらにより、栄養学的に最も好ましいとされているエネルギー構成比が炭水化物55〜60%、たんぱく質12〜15%、脂肪20〜30%となるとともに、充分な無機質、ビタミン、食物繊維の摂取が可能となる。表1に示した抗酸化性物質は、実に多種多様な食品に含まれており、いずれも、戦後に築き上げた日本型の食生活の中で摂取されている食品と密接に関係していることは一目瞭然である。我々は日常的に日本型の食事をする中で、自然に、活性酸素の有害な作用から我々の体を守っているのである。これらの抗酸化性物質は、偏った食事からは摂取することは困難であり、それぞれの有効成分は、たとえ少量ずつでもバランスの良い日本型の食生活を持ってして始めて摂取可能となるのである。なぜなら、それぞれの抗酸化性物質は、その機能の異なる特徴的な作用をもち、食品脂質の酸化変性、そして、活性酸素の害から我々の体を守っているからである。

それぞれの抗酸化性物質の機能を簡単にまとめると表2の様になるが、活性酸素の有害作用を防ぐには組み合わせの重要性が理解できると思う。

1)は図2に示した脂質ヒドロペルオキシルラジカル生成の連鎖反応を切断するタイプであり、最も典型的な抗酸化剤の作用である。この反応が切断されないと脂質ヒドロペルオキシルラジカルの生成が連鎖反応を介して際限なく続くことになる。この型の反応を阻止する抗酸化剤には、近年注目を集めているフラボノイド化合物の一つであるお茶のカテキン類、またリグナン類に分類されるゴマのセサミノールなども含まれる。

2)はヒドロペルオキシドを直接分解するタイプの抗酸化剤であり、メラノイジンやリン脂質の褐変物が含まれる。

3)は金属キレート剤であり、脂質ヒドロペルオキシルラジカルの生成や分解・再連鎖反応に触媒として作用する一連の金属をキレート化する作用を持っている。フラボノイド類やフィチン酸の他に、クエン酸や酒石酸、リンゴ酸等の有機酸類やリン脂質類がこのタイプに含まれる。

4)は活性酸素を直接消去するタイプの抗酸化性物質であり、一重項酸素を消去するカロテノイドが有名である。ビタミンEにもこの作用があるが、カロテノイドに比べればその作用ははるかに弱い。スーパーオキシドを消去する抗酸化剤にはビタミンEやCの他にフラボノイド類も含めたフェノール性の化合物やグルタチオンが含まれる。

5)その他として抗酸化酵素の構成成分として作用する一連の物質がある。セレンは脂肪酸ヒドロペルオキシドの分解にあずかるグルタチオンペルオキシダーゼの構成成分として、また、銅、亜鉛、マンガンはスーパーオキシドディスムターゼの構成成分として、酵素活性の維持に不可欠な成分である。グルタチオンはグルタチオンペルオキシダーゼが、脂肪酸ヒドロペルオキシドを還元・分解する際にも必須の成分である。

以上のように、日本型食生活は活性酸素の害から我々の体を守る上で重要な働きをしている。闇雲に欧米型の食事に傾倒することなく、バラエティーに富み、彩り豊かな伝統的な日本型食生活の良さを再認識し、食事を楽しみながら心身ともに健康な生活を送りたいものである。
ここでは、日本型食生活に特徴的な抗酸化性物質のうちフラボノイドを取り上げ、その概略を述べる。

『フラボノイド』

1.化学構造とその種類
フラボノイド化合物は、ポリフェノールと総称される化合物の中のさらに一群の化合物の総称であり、果実類、野菜類、種実類、豆類等に含まれる。その構造は、フラバン核をもち(図3)、この骨格にOH基を結合させるとともに糖を結合して配糖体として存在する化合物も多い(Havsteen, B. 1983)。主なフラボノイド化合物種の骨格構造を図4に示す。OH基の結合位置や配糖体として結合する糖が異なる種々の異性体が存在する(Havsteen, B. 1983)。現在までに4、000以上の化合物が同定されている。また、重合してタンニンのような形で存在するものもある(Muramatsu, K. et al. 1986)。フラボノイドの生化学的な活性の違いはこうした化学構造の違いに依存する。

2.吸収
カテキンがラットの腸管から吸収され(Bravo, L. et al. 1994)、高コレステロール食投与時には、糞中へのコレステロール排泄を高めて血漿コレステロールの上昇を抑える(Muramatsu, K. et al. 1986)ことが報告されている。ヒトでは、腸管から吸収される(DAS, N. P. 1971, Hollman, P. C. H. et al. 1996, Paganga, G. & Rice-Evans, C. A. 1997)が、この際、糖が加水分解されて遊離し、アグリコンとして検出される(Hollman, P. C. H. et al. 1996)とする報告と、配糖体そのままの形で吸収され血漿中に検出される(Paganga, G. & Rice-Evans, C. A. 1997)とする報告が最近出されている。一方で、検出できるレベルには吸収されない(Gugler, R. et al. 1975)とする報告もある。フラボノイドの多彩な生理作用が示されているにもかかわらず、基本的な吸収に関するデーターが不足しており、どの程度のレベルが生理作用発現の閾値にあたるかが不明である。

3.活性酸素との反応
表2にはフラボノイド化合物は活性酸素のうちスパーオキシドとのみ反応するように示されているが、実際には、1重項酸素(Matuura, T. et al.1970, Takahama, U. et al.1984)、スーパーオキシド(Takahama, U. 1983a, Takahama, U. 1983b, Ueno, I. et al. 1984, Takahama, U. 1987, Torel, J. et al. 1986, Robak, J. & Gryglewski, R. J. 1988, Afanas'ev, I. B. et al. 1989, Hanasaki, Y. et al. 1994)、ヒドロキシルラジカル(Hanasaki, Y. et al. 1994, Shimoi, K. et al. 1994, Cao, G. et al. 1996)のいずれとも反応するとされており、それらの活性酸素を消去する作用を持つ。スパーオキシドとの反応性に関しては、その水酸基の位置や数、糖の結合位置などによって変化する(Takahama, U. 1983a)。ヒドロキシルラジカルとの反応性に関しても同様であるが、糖類は一般的にヒドロキシルラジカルの有効な除去剤であり、配糖体の場合は糖の部分が、その除去能に大きく関与すると考えられる。従って、これら活性酸素の消去により、次項で述べる脂質過酸化反応のイニシエーションも抑制する作用を合わせ持つことになる。

4.脂質過酸化反応の抑制
生体膜脂質を構成する多価不飽和脂肪酸は、図2に示したようにフリーラジカル連鎖反応により過酸化脂質を生成するが、フラボノイド化合物はVEと同様にフリーラジカルを捕捉し、連鎖反応を切断することで脂質過酸化反応を抑制する(Torel, J. et al. 1986Afanas'ev, I. B. et al. 1989)。こうしたフラボノイド化合物の抗酸化作用に関する報告はin vitro、in vivo共に非常に多い(Takahama, U. 1983b, Torel, J. et al. 1986, Afanas'ev, I. B. et al. 1989, Shimoi, K. et al. 1994, Cao, G. et al. 1996, Pratt, D. E. & Watts, B. M. 1964, Pratt, D. E. 1965, Letan, A. 1966, Younes, M. & Siegers, C.-P. 1981, Takahama, U. 1985, 松崎 & 原. 1985, Fraga, C. G. et al. 1987, Ratty, A. K. & Das, N. P. 1988, Mora, A. et al. 1990, Terao, J. et al. 1994, Saija, A. et al. 1995, Ubeda, A. et al. 1995, Guo, Q. et al. 1996, Oomah, B. D. & Mazza, G. 1996, Chen, Z.Y. et al. 1996)。
また、四塩化炭素(Mourelle, M. et al.1989, Muriel, P. & Mourelle, M. 1990, Cholbi, M. R. et al.1991)やパラセタモール(Muriel, P. et al. 1992)のような毒物や薬物を投与した際に引き起こされる脂質過酸化反応とフラボノイド化合物による組織障害の抑制についても報告されている。さらに、フラボノイドとアスコルビン酸との相補的な相互作用についても報告がある(Skaper, S. D. et al.1997)。すなわち、フラボノイド化合物単独よりもアスコルビン酸が共存することで、フラボノイド化合物の抗酸化作用が強められる。これは、一般的には、抗酸化作用を発揮するために酸化されたフラボノイド化合物が、アスコルビン酸により還元されて再生するためと推測されている。
一方、フラボノイド化合物の中には、酸素の活性化や脂質過酸化反応の触媒となる金属をキレート化して不活性化する性質を持つものがある。従って、フェントン反応により生じるヒドロキシルラジカルの生成を抑制したり、脂質過酸化反応のイニシエーションやヒドロペルオキシドの二次的分解・連鎖反応を抑制することで抗酸化性を発揮することも報告されている(Afanas'ev, I. B. et al. 1989, Morel, I. et al.1993, Miller, N. J. et al.1996)。

5.心臓疾患との関連
近年、フラボノイドの摂取が虚血性心疾患を予防する事が明らかとなって来ているが、この事に関しての詳細は近藤の報告を参照されたい。

6.供給源および食事からの摂取量
日本でのフラボノイド摂取量に関するデーターは報告されていないが、オランダでは、アグリコンとして1日約23mgとされている(Hertog, M. G. L. et al.1992, Hertog, M. G. L. et al.1993a, Hertog, M. G. L. et al.1993b)。この値は、ケルセチン(16mg/day)、ケンフェロール(4mg/day)、ミリセチン(1.4mg/day)、ルテオリン(0.92mg/day)、アピゲニン(0.69mg/day)のトータルとして示されているので、総フラボノイド量にすればさらに摂取量は多くなる。主な供給源としては、紅茶(トータルの48%)、玉ねぎ(29%)、リンゴ(7%)であった。赤ワイン(22.5mg/l)もその供給源となる(Hertog, M. G. L. et al.1993a)。オランダと日本では食事から摂取する食物の内容がかなり異なるので、オランダでのデーターがそのまま日本にあてはまるとは思えない。日本における調査分析データーが待ち望まれる。

7.その他の生理作用
フラボノイド化合物の生理作用として次のような作用が報告されている。抗菌および抗ウイルス(Hanasaki, Y. et al. 1994)、抗炎症と抗アレルギー(Hanasaki, Y. et al. 1994, Hope, W. C. et al.1983)、血小板凝集抑制(Gryglewski, R. J. et al. 1987, Tzeng, S. -H. et al.1991)、毛細血管の透過性の亢進と脆弱性の抑制(Torel, J. et al. 1986)、シクロオキシゲナーゼやリポキシゲナーゼ活性の阻害(Hope, W. C. et al.1983)、抗腫瘍作用(Jankun, J. et al. 1997, Elangovan, V. et al, 1994, Tanaka,T. et al.1997)、そして脂質代謝の改善作用(Bravo, L. et al. 1994, Imai, K. & Nakachi, K. 1995, Kono, S. et al. 1996, Kono, S. et al. 1992)である。


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