栄研スタッフによる解説論文集 作成日 2002/08/22

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高脂肪食とインスリン抵抗性

笠岡(坪山)宜代 江崎治 (国立健康・栄養研究所 生活習慣病研究部)


要旨

脂肪摂取量の増大はインスリン抵抗性を引き起こす最も重要な環境因子である。これは、高脂肪食の摂取により肥満が発症し、それによって脂肪組織や筋肉での糖の取り込みが低下するためと考えられている。その機序として、筋肉や肝臓への脂肪の過剰蓄積による代謝異常、脂肪細胞の肥大化によるTNF-αやレプチンなどの生理活性物質の分泌増加が考えられる。また、インスリン依存的に血中から脂肪組織に糖を輸送するGLUT4 は、高脂肪食の摂取でmRNA発現量が減少することから、高脂肪食誘導性のインスリン抵抗性発症に関与している可能性がある。

しかし、脂肪には様々な種類があり、摂取する脂肪の質の違いによってインスリン抵抗性の発症は大きく異なる。一般に、飽和脂肪酸はインスリン抵抗性を来しやすい。また、マウスに高脂肪食を負荷した研究では、リノール酸を多量に含む紅花油の摂取はインスリン抵抗性を発症しやすく、一方、魚油はインスリン抵抗性の発症が改善される傾向にあった。魚油によるインスリン抵抗性の改善には、肝臓での脂肪合成の抑制と熱産生の増加が寄与していると考えられる。これらの成績は、インスリン抵抗性の予防法として食事療法が重要であることを強く示唆している。

はじめに

我が国の糖尿病の90%以上を占める2 型糖尿病の発症には遺伝的素因の他に、脂肪摂取量の増大や身体活動量の低下などの環境因子が重要である。特に日本における脂肪摂取量の増加は著しく、昭和20 年代から昭和50 年代までのわずか30年間で2.5 倍以上の増加を示している(図1)。欧米諸国に比較すると低い水準であるが、平成10 年に行った国民栄養調査の結果では、脂肪エネルギー比は26.3%に達し“日本人の栄養所要量”で定められている20〜25%(成人)を既に超えている1)。これは栄養学的見地からも問題視されており、実際に年々体格指数(BMI)や糖尿病の罹患率が増加している1)。しかし、なぜ高脂肪食がインスリン抵抗性を引き起こし、糖尿病を発症するのかについて一致した見解は得られていない。本稿で、近年明らかになりつつある高脂肪食の問題点と推測されるインスリン抵抗性発症の機序を解説する。

I. 高脂肪食の摂取とインスリン抵抗性

本邦で増加している2 型糖尿病は、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌の低下およびインスリンの標的組織である骨格筋、肝臓、脂肪組織でのインスリンの作用低下によって発症する疾患である。一般的には後者をインスリン抵抗性と定義している。今までは、インスリン分泌の低下が糖尿病発症の主因として注目されていたが、現在では生活習慣の変化に伴い欧米で見られるようなインスリン抵抗性の発症も問題となっている。

Marshall らは疫学的アプローチにより、脂肪摂取量の高いヒトは空腹時の血中インスリン値が高いことを報告している2)。さらに、脂肪を1 日40g 負荷することによって、IGT(impaired glucose tolerance)から2 型糖尿病への発症率は3 倍以上に増加する3)。これは、脂肪の摂取が末梢(筋肉や脂肪組織など)での糖質の取込みを低下させることにより、インスリン抵抗性を引き起こすためであると考えられている。

この原因として、1)脂肪摂取量の増加が肥満を発症し2 次的にインスリン抵抗性を惹起する、2)摂取した脂肪酸(質の違い)が直接的にインスリン抵抗性を惹起する、の二つが考えられるが(図2)、これらは互いに関連しあっており、現段階ではその機序を完全に切り離して考えるのは非常に困難である。

II. 摂取脂肪量の増加によるインスリン抵抗性の発症機序

a) 脂肪組織への脂肪蓄積

高脂肪食が肥満を惹起する原因としては、単位重量当たりのエネルギーが炭水化物やタンパク質の4kcal/g に対して脂肪は9kcal/g であるため、同じ重量で2 倍以上のエネルギーを摂取してしまう点があげられる。しかし、実験動物を用いた研究では、1 日の総エネルギー量を等しくして脂肪の比率を変えた場合、脂肪エネルギー比の高い食事ほど肥満を発症した4)。つまり、同じ量のエネルギーを摂取しても、脂肪を多く摂取する方が肥満になりやすい。この原因として、脂肪以外の栄養素が門脈を経て肝臓で代謝されるのに対し、脂肪を構成する脂肪酸(特に長鎖脂肪酸)はリンパ管を経由して全身を循環するため脂肪組織に容易に蓄積されやすい事、摂取した糖質やタンパク質を脂肪に変換するにはエネルギーを消費するのに対し、脂肪は余分なエネルギーを消費せず直接脂肪組織に蓄積される事が考えられる。

b) 脂肪細胞由来の液性因子(TNF-α、レプチン)

高脂肪食の摂取は脂肪組織への過剰な脂肪蓄積により、脂肪細胞を肥大/大形化させる。大型化した脂肪細胞からは様々な生理活性物質が分泌され、それが肝臓、筋肉、脂肪組織でインスリン作用を阻害し、インスリン抵抗性を引き起こす。

TNF-αは、免疫系の組織で産生されるサイトカインの一種であるが、脂肪組織でも産生されインスリン抵抗性を増悪させる因子の一つである。ラットに高脂肪食を摂取させると脂肪組織でのTNF-αが増加し5)、ヒトの血中インスリン値はTNF-α発現量と正の相関が認められている6)。また、TNF-αを人為的に欠失させたノックアウトマウスでは、高脂肪食を摂取させると野生型マウスと同様に著しく体重が増加するにもかかわらず、インスリン抵抗性は全く発症しない7)。この結果は、高脂肪食誘導性のインスリン抵抗性にはTNF-αが極めて重要であることを示している。

また、レプチンも脂肪細胞から分泌されるホルモンであり、視床下部の受容体を介して節食抑制に働いている。益崎らはレプチンを過剰発現させたマウスで脂肪組織の減少とインスリン感受性の亢進を認め、レプチンが末梢でのインスリン抵抗性を改善する可能性を示唆している8)。一方、高脂肪食の摂取および肥満患者では血中のレプチンが著明に増加し、このレプチン抵抗性がインスリン抵抗性の引き金になっている可能性も考えられている9)。さらに、脂肪細胞由来の未知の生理活性物質の存在も示唆されており、インスリン抵抗性発症との関連が興味深い。

c) 筋肉、肝臓への脂肪蓄積

高脂肪食の摂取は、インスリンの標的臓器である肝臓、筋肉においても脂肪を蓄積させ、代謝異常を招く。Pan らは、ピマインディアンの研究から筋肉における中性脂肪蓄積量が多いほどインスリン感受性が悪化することを報告している(図310)。この原因として、中性脂肪の蓄積を生じるような筋肉での代謝の変化がインスリンレセプターからのシグナル伝達に障害を与えることが考えられ、そのメディエーターとしてアシルCoA が注目されている11)

また、高脂肪食は肝臓への脂肪酸の流入を増加させ、糖新生の増加による糖 の放出を促進させることで高血糖を生じる。高血糖は筋肉に於いてマロニルCoA を増加させ、CPT1 を阻害することでβ酸化を抑制し、アシルCoA を増加させインスリン抵抗性を発症する。しかし、どの組織の脂肪蓄積が全身でのインスリン抵抗性の発症に中心的役割を果たすか解明されておらず、その他不明な点も多く残っている。

d) 糖輸送体(Glucose transporter 4, GLUT4)

高脂肪食の摂取は脂肪組織でのGLUT4 のmRNA 発現レベルを低下させ、脂肪組織における糖の取込みを抑制する12)。脂肪組織自体の糖取込み低下は糖尿病を発症する程の寄与はないが、インスリン抵抗性は生じる。Spepherd らは脂肪組織特異的なGLUT4 過剰発現トランスジェニックマウスを作成し、耐糖能の改善を認めている13)。さらに最近、脂肪組織特異的なGLUT4 のノックアウトマウスが作成され、筋肉でのGLUT4 は正常であるにも関わらず、極めて強いインスリン抵抗性を発症した14)

III. 摂取脂肪酸の違いによるインスリン抵抗性の発症機序

a) 多価不飽和脂肪酸

脂肪の質は、構成する脂肪酸の種類の違いに依存しており、これも肥満/インスリン抵抗性の発症に大きく関わっている。

非糖尿病患者を対象とした研究では、飽和脂肪酸および一価不飽和脂肪酸の摂取量と空腹時の血中インスリン値との間に正の相関が認められ、多価不飽和脂肪酸の摂取量とは関連がなかった2)。さらに、ピマインディアンに関する研究から、骨格筋のΔ5 不飽和化酵素活性が高いほどインスリン作用の増加、肥満の低下が認められ、筋肉組織を構成する脂肪酸の不飽和度が高いほどインスリン感受性が良好であることが報告されている(図315)。組織中の脂肪酸組成は、食事中の脂質を反映するため、不飽和度が高い食事の方がインスリン作用が良いことになる。

また我々は、マウスに種類の異なる高脂肪食を摂取させたところ、紅花油で肥満と耐糖能の悪化が著しいことを明らかにした(図416)。これは、紅花油に多量に含まれるリノール酸の含量に依存しており、血糖値とリノール酸の摂取量は正相関であった。また、菜種油や大豆油、牛脂も耐糖能を悪化させた。一方、n-3 系の多価不飽和脂肪酸を多く含む魚油は、肥満も耐糖能の悪化も生じなかった。この機序として我々は、n-3 系の多価不飽和脂肪酸は肝臓でのUCP2 のmRNA 発現を増加させることで熱産生を高め脂肪をエネルギーとして消費すること17)、肝臓のSREBP-1c のmRNA 発現量とmature form を低下させることにより、脂肪合成を減少させること18)を報告している(図5)。さらに、しそ油やパーム油では体重は増加するにも関わらず、耐糖能の悪化は軽減されていた。

この結果は、脂肪酸の種類によってインスリン抵抗性をきたすメカニズムが異なることを示唆しており、肥満とインスリン抵抗性の発症が必ずしも一致していないことを示している。

b) その他

近年、脂肪酸の構造を物理的に変化させた特殊な脂肪酸(トランス酸、共役脂肪酸、ジアシルグリセロールなど)の摂取も増加しつつある。これらの、新規脂肪酸は特定の転写因子を活性化させる可能性があり、遺伝子発現調節を著しく変化させる可能性が示唆されている。しかし、これら新規脂肪酸の正確な作用機序は不明であり、インスリン抵抗性の発症に関して一致した見解は得られていない。我々は、マウスに大過剰の共役リノール酸を摂取させたところ、著明なインスリン抵抗性を発症することを見い出した19)。このマウスでは、体脂肪の劇的な減少、重度の脂肪肝も認められ、脂肪萎縮性糖尿病と極めて類似した病態を呈していた。この時、脂肪組織のGLUT4 は著明に減少していたが、筋肉での減少は認められなかった。この結果は、脂肪組織の著明な減少、肝臓への脂肪蓄積の増加は、筋肉を介さずにインスリン抵抗性を発症する可能性を示している。

おわりに

従来から、骨格筋は糖を取り込む最大の組織であることが示され、筋肉での糖の取り込み低下が全身でのインスリン抵抗性を引き起こすと考えられていた。しかし、インスリン抵抗性の発症には肝臓、脂肪組織なども大きく寄与しており、どの組織が全身でのインスリン抵抗性の発症に最も寄与しているかは不明である。また、摂取する脂肪酸の種類によってもインスリン抵抗性の発症が大きく異なることは注目すべき点である。今後、これらの機序を明らかにし、個々人の遺伝素因やその代謝状態に対応した、適切な脂肪摂取の基準を作成することが必要であろう。

臨床栄養学的視点からのインスリン抵抗性の1次予防法としては、摂取脂肪レベルを減少させ体脂肪を抑えること、摂取する脂肪の質を変えることが現在実行可能な改善方法であり、重要であると考える。

参考文献

1) 国民栄養の現状、厚生省保険医療局、2000

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15) Pan DA, Lilloja S, Milner MR, Kriketos AD, Baur LA, Bogardus C: Skeletalmuscle membrane lipid composition is related to adiposity and insulin action. J ClinInvest 96: 2802-2808, 1995

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19) Tsuboyama-Kasaoka N, Takahashi M, Tanemura K, Kim HJ, Tange T, Okuyama H,Kasai M, Ikemoto S, Ezaki O: Conjugated linoleic acid supplementation reducesadipose tissue by apoptosis and develops lipodystrophy in mice. Diabetes 49: 1534-1542, 2000


図1 脂肪摂取量の年次推移


図2 高脂肪食によるインスリン抵抗性の発症


図3 インスリン感受性と骨格筋中性脂肪濃度およびΔ5不飽和化酵素活性の関連

(左:インスリン感受性と骨格筋中性脂肪濃度の関連    右:インスリン作用とΔ5不飽和化酵素活性の関連)


図4 耐糖能におよぼす食事脂肪の影響

Fig. 2-1. Oral glucose tolerance tests. Each data point represents the mean of 3 to 7 mice at 3 weeks and 4 to 10 mice at 18 weeks. At 3 weeks of feeding: p<0.001, carbohydrate vs. palm oil, lard oil, rapeseed oil, soybean oil, safflower oil, perilla oil, and fish oil; p<0.05, lard oil vs. rapeseed oil. At 18 weeks of feeding: p<0.001, carbohydrate vs. lard oil, rapeseed oil, and safflower oil; p<0.01, carbohydrate vs. soybean oil, p<0.01,safflower oil vs. fish oil and palm oil; p<0.05, carbohydrate vs. perilla oil and fish oil; p<0.0 5, safflower oil vs. lard oil and perilla oil.


図5 魚油摂取によるインスリン抵抗性改善機序


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