栄研スタッフによる解説論文集 作成日 01/07/24

ホームへ戻る
先進諸国におけるITを用いた学習方法の検討

廣 田 晃 一 (国立健康・栄養研究所 健康栄養情報・教育研究部)

 この文章は、平成12年度厚生労働省特別研究費報告書の一部として作成されたものです。


インターネットや携帯電話といった情報技術(IT)の急激な発達は我々の生活そのものを根本的に変革する可能性を持っており、健康教育分野においてもこれを利用したさまざまな取り組みがなされてきた。しかし、こうした取り組みのうちでその効果がはっきり証明されたものはほとんどないのが実情である。新しい技術を用いることに主眼がおかれ、それが適切であるかどうかの議論もなおざりにされているというのは言い過ぎであろうか。

1993年5月にT. ラクウェイとJ.C. ライアの『Internetビギナーズガイド』の日本語訳が情報スーパーハイウェイ構想の提唱者A. ゴア合衆国上院議員の序文付で出版された。この本の著者ラクウェイとライアの二人はコンピュータの専門家ではなく女性ジャーナリストであり、主として利用者の立場からこれを書いているが、ここにはワールドワイドウェブ(WWW)は名前さえ出てこない。1989年にスイスで開発されたこの新しいアプリケーションは当時はまだまったく普及していなかった。ところが、2001年7月現在一般の利用者にとってインターネットといえば、電子メールかワールドワイドウェブのことである。その1993年当時にはWWW以上にGopherが新しい技術として注目されていた(例えば国立がんセンターにはWebサーバ以前にGopherサーバが存在した)が、現在Gopherの名前を知っている人はどれほどいるのだろう。そもそもそんな技術を未だに使っているサーバが存在するのであろうか。WWWそのものも、1993年には日本語の表示ができず、画像もGif形式のものでなければいけなかった。それが現在では日本語と韓国語、アラビア語等を混在させて表示したり、リアルタイムで映画を配信することも可能である。

ここまで技術の進歩が急速だと、最新の論文でさえ、そこで用いられている技術がひどく古臭く陳腐に感じられてしまうのは否めない事実である。L. ポーターは『インターネットによる遠隔学習』を1997年(日本語版は99年)に出版したが、そこで述べられている理論はともかく、技術、特にWWWに関する技術的な記述や、引用されているホームページなどの画面は既に古色蒼然とした、現在ならば悪いページの見本になりそうなものになってしまっている。コンピュータ技術の多くがそうであるとしても、WWWはとりわけ変化が激しい分野であるということは言える。

したがってインターネットを利用した新しい学習方法を検討するためには、どうしても現時点での最新技術に目を向ける必要がある。ただ、WWWが登場して以降、WWWそのものは急激な変化を続けている反面、まったく新しい他のプロトコルは登場していない。インターネット上のすべての技術がハイパーテキストトランスファープロトコル(HTTP)を利用するWWW(そしてそのアプリケーションとしてのブラウザ)をインターフェイスとして用いるようになってきた結果、利用者はブラウザの使い方だけを覚えれば良くなり、開発者はWWWの開発がますます困難になってきているというのが、単純に過ぎるかもしれないが現在の状況であろう。

学習に用いることが可能と思われるインターネット上の技術には以下のようなものがある。

1) 電子メール
2) ネットニュース(メーリングリスト)
3) 掲示板
4) チャット
5) ホームページ
6) MUD(マルチユーザーダンジョン)
7) ボット(チャット及びMUD上の会話ロボット)

 これらの技術はどれも本来は学習のために開発されたものではなく、ネット利用者のコミュニケーション手段(1、2、4、5)、ファイルのやり取り(3)や娯楽(6、7)のために開発されたものである。

1) 電子メール
 電子メールはインターネットがまだARPANETと呼ばれていた時代から存在するアプリケーションであるが、今や携帯電話でも使用できるようになってますます便利なものになってきている。実際WWWが登場するまでは、インターネットの利用のかなりの部分を占めていた。通信の際に相手がその場にいる必要がないことから電話というよりは郵便やFAXのような感覚で扱うことができるが、文字以外の情報を送ることができるので、郵便やFAXでは不可能なさまざまなことが可能になる。学習における使用法としては、定期的な通信手段として用いられることが一般的であるが、間欠的に学習者に注意を喚起するための手段として用いている例もある。いわば一種の目覚し時計であるが、上述のように電子メールはその場で簡単に返答ができるため、そこから継続的な関係が保たれやすいという利点がある。また直接WWWによるホームページへ飛んで学習を行わせることも、ビデオ映像を見せたりすることも可能であるなど、コンピュータで可能な学習のすべての出発点にしうるものである。

2) ネットニュース(メーリングリスト)
 電子メールは、個人的な通信手段でありグループでの討論などの手段にはあまり向いていない。ネットニュースは、新聞の投書欄のようにある特定の主題についての意見を投稿する場であり、これをメールの形で行うのがメーリングリストである。歴史的には別々に発展してきたものであって、限られたリソースを有効に使うために考え出された手段であるが、現在のインターネットの状況には必ずしも即しているとはいえず、次第に変化してきている。
 特にネットニュースは、利用者がアクセスできるサーバへニュースが配信される必要があり、また特殊なアプリケーションを使わないと読めないことから、誰もが利用できるサーバ上でWWWのインターフェイスを持った形のものが増えてきた。こうなってくると、もちろん多くの違いはあるが、次に述べる掲示板と似通ったものになってくる。ただし、ネットニュースは基本的に全世界のニュースサーバに配信されるものであるため、極端に個人的なものはない。実際にはそういうニュースグループも存在するが、一応ある程度の公共性を持ったものがネットニュースであり、それは例えば、新しい学習方法に関するグループであったり、健康に関するグループであったりする。
 メーリングリストは、これをメールの形で行うものである。つまり、誰かがあるメーリングリストへ投稿すると、これの購読予約をしているすべての利用者にメールの形でそれが届けられるのである。基本的にはネットニュースのようなサーバは存在せず、一回ごとにメールが送られてくるのを待つわけであるが、ネットニュースと連動するような仕組みもあるし、途中から購読をはじめた利用者のためにそれ以前のメールをまとめて送ってくれる仕組み(ということはそれを蓄積しているサーバがあるということである)もある。
 ネットニュースもメーリングリストも共に例えば禁煙プログラムにおける共通の議論の場、あるいはお知らせの場といったものを形作ることができる。ネットニュースはニュースサーバへの登録など難しい点があるが、メーリングリストはメーリングリスト・アプリケーションを立ち上げるだけで誰にでも作ることができ、利用するほうでも通常のメーラーだけあれば良いので比較的に手軽に使用可能である。しかし、やはりどうしても通覧するのに不便であったりする。通常はネットニュースと連動させることでこの点を補うが、最近ではWWWで通覧可能にできるようになっているものも多いのでこれを利用すると良い。

3) 掲示板
 掲示板は、その名の通り情報が書きこまれて掲示される仕組みである。もともとインターネットではネットニュースとメーリングリストがその役目を果たしてきたが、現在ではWWWのホームページの形で掲示板が公開されることが多い。というのは、ホームページなので誰にでも気軽に立ち上げることができるからである。この掲示板と、次項のチャットを立ち上げることでホームページ利用者間のコミュニケーションを高めることができる。

4) チャット
 チャットというのは、リアルタイムでするネット上の会話である。といっても音声でするのではなく、これもホームページを使ってする。しかし、これは上述のどの技術とも異なりリアルタイムで複数の人間が各々のコンピュータの前にいる必要があり、その使用は限られる。しかし、効果的に使えば他の技術にないことが可能になるだろう。

5) ホームページ
 ホームページについては説明の必要はないだろう。上述のように従来のインタネット上のプロトコルがすべてホームページ上に集約されてきている。それだけでなく、ほとんど考えられるすべてのものがこのホームページを軸にして展開するようになってきており、今後の学習方法を考える上でも欠かせない。しかし、そのために、初期の単純なHTTPに比べて、現在のHTTPはプログラマーでなければ完全には理解できないくらい難しいものになってしまった。その結果、昔はだれでもそれなりのページが作れたのに、今ではまったくの初心者には、専用ソフトの助けを借りても見栄えのするページを構築するのはなかなか難しい状況になってきている。学習方法を検討していく上でこの乖離をどのように克服するかが重要な課題である。

6) MUD(マルチユーザーダンジョン)

7) ボット(チャット及びMUD上の会話ロボット)
 日本ではあまりなじみがないが、要するにロールプレイングゲームのネット版である。ネット上の複数の利用者がグループになって、あるいは各々好き勝手に洞窟を探険する、あるいはネット上の架空の町で暮らす。チャットに似ているが、状況設定が現実とは異なるという点で、欧米では学習への応用が試みられている。ボットというのは、コンピュータによる人工知能であり、これもMUDと組み合わせることで、学習者に適切な助言を与えたりして学習効果を高められると考えられることから種々の検討がなされている。
 ただ、日本では紙の上でするロールプレイングゲームの場合もそうであったが、欧米でいう所謂ロールプレイングゲームはほとんど受け入れられなかったので、日本においては、チャットと掲示板を組み合わせた、もう少しリアルライフに近い形でのロールプレイングを展開するように検討すべきかもしれない。

 以上、インターネットで用いられる種々の技術について、欧米での学習への応用という観点からまとめた。インターネットの展開は日本はアメリカに三年遅れているといわれており、ひょっとすると今後MUDのような技術が流行るのかもしれないが、それよりはアメリカとは異なって、iモードによってホームページがより個人的な情報展開の場になり、実生活そのもののMUD化が起こるのではないだろうか。であれば、実生活におけるMUD的な学習方法の展開というものを欧米の例を参考に検討していく必要があるだろう。


文献
1) 尾家祐二、後藤滋樹、小西和憲、西尾章治郎:インターネット入門(岩波講座インターネット1)、 岩波書店、東京、2001
2) T. ラクウェイ、J.C. ライア:Internetビギナーズガイド、アジソンウェスレイ・トッパン 情報科学シリーズ38、トッパン、東京、1993
3) リンネット・ポーター:インターネットによる遠隔学習、海文堂出版株式会社、東京、1999

  健康情報データベースから関連項目を検索
  PubMedから関連項目を検索

 (c) All Copyrights reserved 2002 National Institute of Health and Nutrition